お気に入りの詩


言葉のダシのとりかた   
                 長田 弘          

かつおぶしじゃない。


まず言葉をえらぶ。


太くてよく乾いた言葉をえらぶ。

はじめに言葉の表面の


カビをたわしでさっぱりと落とす。


血合いの黒い部分から、


言葉を正しく削ってゆく。


言葉が透きとおってくるまで削る。


つぎに意味をえらぶ。


厚みのある意味をえらぶ。


鍋に水を入れて強火にかけて、


意味をゆっくりと沈める。


意味を浮きあがらせないようにして


沸騰寸前サッと掬いとる。


それから削った言葉を入れる。


言葉が鍋のなかで踊りだし、

言葉のアクがぶくぶく浮いてきたら


掬ってすくって捨てる。

鍋が言葉もろともワッと沸きあがってきたら


火を止めて、あとは


黙って言葉を漉しとるのだ。


言葉の澄んだ奥行きだけがのこるだろう。


それが言葉の一番ダシだ。


言葉の本当の味だ。


だが、まちがえてはいけない。


他人の言葉はダシにはつかえない。


いつでも自分の言葉をつかわねばならない。